時間の行き来があまり明確化されない事もあって、
ちょっと小難しくはありましたが…「噛み締める」という表現がぴったりな
味わい深いドラマだったのかなぁと思います。
画家・小野(渡辺謙)の少年時代から現在までが描かれました。
物語の流れとしては、「私の社会的地位を意識した事などまともにない」といった
自身を紹介する小野の語りから始まります。
そこから、小野が画家になるきっかけとは何か、
小野が過去に犯した「罪」とは何だったのか、
キーパーソンである黒田(萩原聖人)には何があったのか…
これらの謎を徐々に解き明かしていくようなミステリーっぽい作りになっていきます。
冒頭でも書いた通り、語りを除いてほぼ登場人物でのやり取りだけが
じっくりと描かれていくので、ついつい引き込まれてしまう感じです。
後半では「自分の信念は正しいものだったのか」という
小野の葛藤や苦悩の描写がメインで描かれました。
縁談にいる周りの人々の反応を伺い、相手から嫌に思われてるんじゃないか、
睨まれてるんじゃないかと敏感になる彼のシーンは、何とも胸がキリキリする心地です。
苦しんでいる時に流れる不穏な劇伴が更にそうさせられます。不気味。怖い。
でも、小野が思っている事は「悪い」とする所もあるけれど、
全てが全てそうではなくて、「考え過ぎじゃない?」とする所だってある。
戦時中と戦後では、何が常識で何が非常識かは異なってくる。
もちろん、絵画の仕事に携わってるか携わってないか…でも。
ドラマだけに留まらず現実でもそうだけれど、
それぞれが培う考えは、あくまでも自分の経験した事や
生きた時代に基づくのが大多数であるから、何が正しいのかなんて一概には言えない。
これはどの時代も変わらないんじゃないかと思います。
私だったら…正しいかどうかは置いといて、まず小野の画家人生を責めたりはしないかな。
「信念」を持って時代の流れに追いつこうと努力した事には変わりありませんから。
とりあえず、「今」だけを見て判断はしたくはない…そうひしひしと考えさせられました。
思い込み=自身が"浮世の画家" だと分かっていても、過去の過ちを受け入れつつ
今の時代で生きていくしかない苦しみを味わい続ける小野。
自殺を仄めかすような行為を含めた今までの流れを「悲劇」とするならば、
一郎(寺田心)が声をかけてくれた事…これが「喜劇」なんでしょうかね。
幼い声で一気にホッとさせられたラスト。
支えとなる人がいる事がまだ救いなんじゃないかと。
戦争時代の描写もありましたが、飛行機や爆弾などで分かりやすくせずに
絵や人々だけで紡いでいく手法は斬新で良かったです。
ロケーションも色彩もまるで絵のような趣。美しさと闇の深さに魅せられたドラマでした。