アンメット ある脳外科医の日記 11話(最終回) 感想|心を満たしてくれる存在

 

 

「川内先生。わかりますか?」の三瓶(若葉竜也)の問いに対して

ミヤビ(杉咲花)が返したのは「わかります。」という答え。

この「わかります。」の前にはもちろん意味は含まれているのだろうけど、

表面的に見てみれば、何に対して「わかった」なのかは分からないし、

仮にまだ記憶を失った状態だったとしても、

目覚めていきなり医者っぽい格好の人にそう聞かれたら

「はい」の調子で答えてしまうかもしれない。

 

でも…ミヤビは目を潤ませながら、鼻をひくひくさせながら、

声を震わせながら「わかります。」と伝えた。

きっとそれは、今目の前にいるのが大切な人で、

その大切な人を思い出せている自分が嬉しくて、

溢れる感情が止まらない…という事だと信じたい。

 

カンテレ制作のこの枠のドラマは、基本的に最終回は延長しないものの、

本作は特に視聴者に好評だったにもかかわらず、拡大をせず通常時間内で描き切った。

もし拡大放送をしていたら、目覚めた後の数分間で

いつも一緒にいてくれる優しくて楽しい面々と居酒屋で快気祝いも含めた

"その後"もさらっと描いていたんでしょうけど、

「私の今日は明日に繋がる。」とも日記に書かれていたように、

ミヤビと三瓶はこれから少しずつ思い出を重ねていけるんだね…

重ねていけると良いな…と想像を膨らませたくなる、

希望を感じさせる締めだったと思います。

いつもは「同じ病院で働いてる〜」が決まり挨拶の三瓶が

最後では「脳外科医の三瓶先生」ではなく「三瓶友治」として接している所も、

あの回想の後で、どうか思い出して欲しいという切実な願いが伝わってきて。

その分、ミヤビが「わかります。」と言った時の安堵の気持ちを増幅させた気がします。

 

手術シーンもねぇ…ここ最近のドラマで、

あんなに静かで、かつ緊張感もじわじわ感じさせるシーンを見た事があったかな。

ミヤビの命がかかっているから、そっちに引きずられてしまう反面、

あまりにも静かな時間が流れているのに、ふと驚いてしまっている自分もいたのです。

聞こえてくるのは心電図の音と、酸素を吸入する(?)スー…という音だけ。

瞬きする余裕もなく向き合う三瓶の目のアップを始めとした、

手術に携わる人々の不安・願い・緊張が垣間見える表情を映し出すカット。

そして、残り1分を切ったら手持ちカメラに切り替えたのか、ブレが出始めて

まるでドキュメンタリーかのような臨場感が増す。

ドラマチックな劇伴を大きな音量で流さなくても、

照明や主人公が挑む姿を映すエンタメ色の強い演出を加えなくても、山場は魅せられる。

そう証明してみせた、中々貴重なシーンでした。

 

本作の感想をなぜか今まで書いてこなかったので

(まぁ…半分は気力のせいです。やっぱり一度サボったらアカンですな(汗))、

ここから少し総括まじりに書くとするなら。

正直、前回までの内容だったら、

ちょっとだけアンメット(=満たされない)な状態で見終えてしまってはいました。

というのも…記憶障害を長期間発症し続けているミヤビが"医者"として、

失語症患者や左半側無視といった、同じく治すまでに相当時間のかかる

病気を患っている患者の心の治療をする姿を描いた1・2話に惹かれた私からしたら、

3話以降は惜しいなぁと思う回が頻繁にありまして。

例えば、元々の原作の主人公が三瓶であるが故に、上手く改変出来なかったのか

ミヤビとの描写の比率が偏っているように映ったり、

1〜3話という物語の方向性を固める重要な段階で

なぜか津幡(吉瀬美智子)の回を3話でまるまる1時間使ったり、

あとは…三瓶と大迫(井浦新)との対立、綾野(岡山天音)との恋愛絡みの対立、

綾野と麻衣(生田絵梨花)の婚約話、西島会長(酒向芳)も交えた陰謀論など

サブエピソードで描く事が多過ぎて。

5話や7話のような良い回も時々あれど、

全体的に「ミヤビが主人公」感が薄れてしまっているというか、

もっと患者に寄り添う彼女が見たいかなぁと、若干勿体なさは感じていたんです。

 

けれども、作り込んだからぜひ見届けて欲しいという

作り手側の想いやこだわりがビシバシ詰まった最終回を見たら、もう吹っ切れちゃって(笑)

いや…最終回だけに関係なく、引き算で見せる演出、劇伴、演技から滲み出る心地良さは、

初回からずっと好みではありました。

医療ドラマでありがちな、いがみ合いや、嫌がらせをしてくる上司の存在、

医者を見下す描写がなかったのがとても見やすかったです。

会話のシーンにしたって、声を張る部分がないから凄くリアルに聞こえましたしね。

初回放送後にたまたま目にして読んだ若葉竜也さんのインタビュー記事↓で

若葉竜也、民放連ドラ出演決意した“打ち合わせ”「面倒くさいことに付き合ってくれるなら」(マイナビニュース) - Yahoo!ニュース

「テレビドラマでよく見る、登場人物が説明的なことをべらべらと話すような台詞はやりたくない」

と若葉さんが仰っていたんですが、作り手がそのご要望を汲んで、

役者さんの演技の力を、視聴者の賢さを最後まで信じて

制作されたんだろうな…というのがよく伝わってくる作品でした。

 

「エルピス」でも前期の「春になったら」でも感じた事ですが、

「これを届けたい!」ものが明確にあって、それを妥協せず形に落とし込んで

丁寧に、真摯に制作された作品の熱量は、

1クール分を埋めるために企画された作品と違うのは明らかなんですよね。

カンテレ制作の枠は、月10と…去年出来た「火ドラ★イレブン(火11)」の2枠のみ。

枠数が少ないからこそ、1つの作品を作り込める良さってあると思います。

ついでに言うと、ここ最近思うのは…ドラマの本数が多いと、それぞれの枠のカラーも薄まれば

ただスタッフやキャストを押さえるのに必死になるばかりで個々の作品に時間をかけられず、

結果的に、ドラマ全体の質が下がってしまっているような気もします。

特にフジテレビのドラマ枠は本当に多い。多過ぎる。

いや、フジテレビだけにかかわらず、本作をきっかけにじゃないですけど…

どの局も本数を調整して、「日本のドラマはやっぱり面白い!」と思えるような

作品1つ1つの質を高められる方向になってくれたら良いですよね。

全てが全て、本作のような洗練された作風を目指して欲しい訳じゃなく、

曲者キャストや豪華な劇伴で彩ったエンタメ色の強い作品も、

ツッコんで楽しめる作品も必要なんですけどね(笑)

 

話を本作に戻して…「群青領域」ぶりのお見かけとなった若葉竜也さんの、

ビー玉のような純真な目の演技も印象的でした。

演技力は前提として、何となく変人な医者に見えて、

マスクをつけたら実は少年っぽい…?という

ギャップ込みでのキャスティングだったのかも?とも思えたり。

もちろん、安全な場所にいたのが、三瓶に刺激を受けて、時に壁にぶち当たりながらも

医者を目指すようになるまでの過程を繊細に演じた杉咲花さんも良かったです。

他にも、良い人なのか悪い人なのか心の内が読めないミステリアスな井浦新さんも。

シリアスめいた雰囲気の中で明るい風を注いでくれる立ち位置の野呂佳代さんも、

実は一番頼れる藤堂を演じられた安井順平さんも。

本作、何気にキャストのバランスも絶妙でしたよね。

 

本当は、本作の感想は雑感集に組み込む予定でしたが…

長くなりそうな気がしたので先に書いちゃいました。

本作の感想を待っていて下さった読者様には、中々書けなくて申し訳ありません。

実は、2話以降録画を溜めてしまっていたので、最終回に間に合うように

約5日間数本視聴して、何とか追いつこうとしていたのです(汗)

(↑日9もそう。感想は後日書く予定です。)

感想を書きたいんだったら早めに書く。

数本溜まったら各回の感想執筆は諦めて、まずは視聴して追いついて

ある程度まで来たら雑感を…なんて、ちゃんと形を決めないとダメですなぁ。

 

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